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『釜ケ崎風土記』 斉藤俊輔著

日本にこんな凄い街があった。
大阪に「釜ケ崎」と呼ばれる一帯がある。600米四方に3万人が棲む街で、「治外法権の街」と著者はいう。「日雇い労働者にむらがる、ヤクザとボランティア、悪徳商売人。そんな人間が混在するドヤ街」には警察権力もしっかりは及ばないようだ。道路や公園には、ドヤさえない男たちがいっぱい寝ている。
著者は、この街に住み込んでルポを書いた。「この街の住人にならなければ、この街の人たちは心を開かない」からだ。
日本一のドヤ街・釜ケ崎の実態、そこに暮らす人々の実際と過去。読み進むとぐんぐんと引き込まれてゆくのは、それが創作でないからだろう。
いったい、どんな人がこの街に暮らしているのだろう。
「オカマ」「夜逃げ」「犯罪者」「ヤクザくずれ」「在日外国人」、それに「一般の社会についていけない人たち」だという。それは「貧しい家、恵まれない家に生まれた者の運命」だとも著者はいう。そんな人たちが3万人暮らす街が釜ケ崎だ。
「そんな人たちは普通の社会では蔑視され、差別され、この街に逃げるように迷い込んで来たのだ」。
だから、
「この街はなくならない方がいい。それは、この街でしか生きていけない人々がいるからだ」。
 この街にうごめくように生き続ける人たち。ただし本書はそんな人たちを悲壮感ばかりで描いていない。彼ら、彼女らなりに、逞しく生きている。その暮らしぶりを描き上げている際立った良書だ。

今の世の、「派遣切り」「ネットカフェ難民」たちが甘っちょろくさえ感じる「釜ケ崎」の実態。いや、「派遣切り」「ネットカフェ難民」の諸君への応援歌としても読める一書である。
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新美南吉と宮沢賢治②

 南吉と賢治の文学性の違いを書こうとしていた。
 しかし、取り組めば取り組むほど難物である。それは両方とも「凄い」からだろう。
 私の好みで言えば、空想的な賢治より写実的現実的な南吉の方が数段いいが、もう少し読んでから発表したい。
 賢治と南吉は年齢差もあるので面識はないと思っていたが、賢治の出版記念会に南吉は北原白秋や巽聖歌のかばん持ち? で出席していた。その後、賢治文学に少なからず影響は受けたようだ。
 大論文になりそうだから、この話題はしばらく休憩。英気を養う。
 南吉の短歌を2首紹介する。「雨ニモ負ケズ」と比べると両氏の違いが際立つて分かる。

  いわれなき悲しみなれや風すさぶ海べの網に鶴見ておりぬ
  もし母が生きているなら本などももっと買いてくれようと思うも

宮沢賢治と新美南吉①

 宮沢賢治や新美南吉に限らず童話はあまり好きではなかった。
 ことに賢治のファンタジーでメルヘンチックな話は嫌いだった。というものの最近は全く読んでいなく、嫌いだったのは青年時代のことだ。その理由は今ならはっきり分かる。当時の僕はプロレタリア文学青年で、折りに触れ「旗」を振っていた若者だったから、あんな甘美な話は即ち、ブルジュア志向だと決め付けていたからだろう。
 まして「雨にも負けず 風にも負けず」もくもくと誰かに奉仕する思想など抹香臭くてならなかったのだ。「そういう人に私はならない!」と思っていたのだ。
 最近必要があって、新美南吉をざっと一通り読んだ。南吉については「ごん狐」など数編を読んだ記憶があるくらいで良い読者ではなかった。しかし、瞠目した。
 「こつは凄い!」。
 そして「東の賢治、西の南吉」と言われているということなので、数十年ぶりに賢治を手にとった。(嫌いだけど書架にあるのが不思議だが、これが宮沢賢治たる所以なのだろう)
 そして読むが、やはりどうも好きになれない。(つづく)

『東海道五十三次』 岸井良衛

 古書店の安売り篭からつまんで来た本だが、非常に満足した。
 本は題名の通り、東海道五十三次の宿場を一つずつ紹介してあるものだが、そんな宿場の紹介の合間に江戸時代の旅の事情が書いてある、それが実に面白い。旅の様子、宿の様子、服装、料金。大いに興味をそそられ、しばらくわが家のトイレにいた。(わが家のトイレに置かれる本は特に選ばれた本で、まこと本にとっては名誉なことなのである)
 当時の旅は一日、男なら十里、女や老人でも八里行くのが基本という。一里は4キロだから日に40キロは歩くわけだ。たいへんな距離だ。
 朝は七ツに出発。今の4時。「♪お江戸 日本橋 七ツ発ち~ 」というやつだ。夜は五ツ、即ち夜の8時。だとすれば16時間も道中にいる。そして江戸から京都まで125里と20町を早い人で13泊14日、遅い人でも16日くらいで歩いたという。
 宿は、相部屋で風呂なし、自炊が普通だったとある。江戸後期には今の旅館のようなスタイルも出てきたが庶民には遠い存在だったようだ。
 いずれにしても当時の旅は命がけ。水杯を交わしての出発だった。だから、これも初耳だったが、長旅に出る人は賃貸の住宅なら大家さんに部屋を返して出たそうだ。そういえば、かの松尾芭蕉も奥の細道に出発する際、本所の家をたたんで行った記録がある。
 たった3時間の東京―大阪間をもっと早く、の今とは隔世の感があるが、そんな旅も一生に一度くらいならしてみたい… かな?

テーマ : 歴史・時代小説 - ジャンル : 本・雑誌

『竹久夢二と妻他万喜』 林えり子著

 華やかな女性遍歴で知られる夢二だが、正式に妻として迎えたのが他万喜(たまき)唯一人だった。他万喜は金沢の人で厳格な家庭に育ったが、外交的で今でいうキャリアウーマン志向。バツ1だった。二人は2年で離婚したが、離婚の後に子をもうけ、さらに二人はつかずはなれず…
 夢二については説明するまでもないが、この本は夢二の14ケ所の転宅地を章立てとしている。
 東京、備前、金沢、雑司が谷…… 二人をめぐる人々と、その地の人々が実名で交差する。
 伝記小説は「事実をどこまで書けるか」が文学的な岐路であろう。著者林えり子は雑誌記者の上がり。丁寧に事実の取材を重ね、事実を書き切ったと評価したい。
 女性関係、三角関係、金銭問題、親戚縁者との葛藤、友人の裏切り。そんなどこにでもある「事実」を嫌味なく書き上げて、従来の「夢二像」を補強し、さらに、「妻・他万喜」を世に出した力作である。

テーマ : 読んだ本の紹介 - ジャンル : 本・雑誌

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